与えられた広い私室からは、彼女が愛するダルマスカの街が一望できた。
バルコニーへ出てみれば、夕方でも温かい風がゆっくり通って優しく髪を擽る。
目を瞑って息を深く吸い込めば、図らずとも幸せになれる。
新しい「故郷」は、そんな場所だった。



「ラスラ?」



呼ばれて振り返れば、愛しい花嫁がこちらに笑顔を向けていた。
お部屋の片付けも疲れちゃったわね。笑いながら彼女はゆっくりこちらに向かってきた。
手を差し伸ばせば、ありがとうとその上に控えめにのせた。



「綺麗でしょう?この景色が見られるように、わざわざこのお部屋にして頂いたの」
「前使っていた部屋は?」
「少し改装してもらって、誰でもお休みできるような部屋にしたの」



お父様には随分わがままいっちゃった。そういって彼女は微笑みながら肩を竦めた。
ささやかな幸せを大切に積み上げる彼女はいつだって、誰かの幸せを願っていた。
そう、こんなときでさえ、彼女は唐突に彼に問いかける。



「・・・寂しくは、ない?」



彼女のほうを見れば、心配した様子でこちらを見ていた。
そんな彼女に、彼は優しく微笑んでみせる。



「大丈夫。この国は人も温かいし、なにより誰もが祝福してくれた」
「えぇ・・・。ダルマスカは、私の自慢なのよ。みんないい人たちばかりなの」
「君のような人たちばかりだよ」
「・・・ナブラディアの人たちだって、あなたにとてもよく似ていて優しい人ばかりよ」



一度訪れただけでそれがわかったわ。彼女はそう微笑んで告げて、彼の肩に控えめに寄りかかる。
そんなことを彼女が最初から感じていたなんて、初めて聞いたことだった。
だからこそ、丁寧に選ばれた寂しさを分け合おうとする彼女の言葉が心の奥にそっと響いた。



「・・・アーシェがいれば」
「うん?」
「どこにいたって、大丈夫さ」



そう、たとえ血塗られた戦場にいたって、彼女を想うだけで強くなれるような。
優しい彼女を、彼は優しさの限りそっと抱きしめた。