「帝国史?」
「そう。これからたくさんの国と関わると思うし。ちょっとはいいかなって」
「・・・今まで散々やってきたんじゃねぇの」
「2年間は解放軍としてやってたし、あなたたちとの旅もあったから。あのころのものはもう古いわ」



そういって、彼女は古書で埋まったデスクに向きなおる。
勉強熱心なのはいいが、少々真面目すぎるのではないか。
バルフレアの心配をよそに、それでも彼女は黙々と続ける。
優秀なもんだねぇ、と心配交じりの溜め息を吐き、彼は古書の1つを手に取る。



「アルケイディア帝国史?」
「随分複雑で困ってるのよ。あ、でも空賊のことも書いてあったわよ」
「俺は」
「この物語の主人公だからな」



彼の言葉に続いたのは、デスクに未だ首を擡げている彼女。
それでも、彼女の小さな肩は微笑に震えている。



「オイ」
「だって・・・おかしくて・・・。それに、あなたのことは載ってないわよ」
「使えねぇやつだな」



そういって、バルフレアはパラパラと読んでいく。
すると見覚えのある文が彼の目にはいった。



「これ、昔やったな」
「え?」
「嫌々覚えさせられたもんだ。近代史だの古代史だの」
「そう・・・。私も、所々覚えているところがあるの。あのころは一生懸命だったなって」
「今もそうだろうが」
「・・・でも、あのころは父や周りの人に褒めてもらいたくてただ読んでただけだから」



彼女は彼のほうに向き直り、微笑んでみせる。少し悲しげに。
それを見たバルフレアは、笑って続けた。



「俺もそうだった」
「え?」
「わけもわからず必死だった。父親の機嫌がよくなるように、褒めてもらえるようにな」



まぁ要するにガキだったってわけだ。
彼は宙に笑い飛ばすことで、過去をどこか遠くへ流そうとする。
しかしそれを彼女は見逃さなかった。



「・・・ちがうと思う。期待とか、機嫌とか、そういうのじゃないと思うわ」
「なに」
「あなたが頑張る姿を見るのが、きっと嬉しかったんだと思うわ」
「・・・今更なにいって」
「私はそうだったの。父や、あの人は、私が頑張ってるのを一番に応援してくれたのよ」



・・・なーんてね。照れくさそうに笑って、彼女はまたデスクに向き直る。
自分を愚かしく思う過去も、向き合えばまるで違うのだ。
彼女は、それをわかっている。自分以上に。

バルフレアは照れくさそうに笑って、そっと肯定してみせた。