「私、幸せよ」
瞳は潤んでいて、そして唇は甘い果実のように麗しく艶やかだった。
愛しい女を一番感じられるこの極上の場所で、バルフレアはそれを耳にする。
自分をまっすぐに見上げている彼女は、それだけ告げると恥ずかしそうに目をそらした。
が、空賊である彼がそれを見逃すはずがない。
「今日はえらく素直じゃないか」
「悪い?」
「いや全く。むしろ毎日でもいいくらいだぜ?」
そして覆いかぶさる影がさらに近づいて、アーシェは呼吸を奪われる。
苦しいはずなのに、それでも構わないと思うのはなぜだろう。生きていなければ彼と触れ合うことなどできないのに、本当の自分は息より彼を求めている。
そしてこんな自分をいつもなら愚かだと吐き捨てるのに、それさえもどうでもよくなる。
心地よい体温と緊張にいつまでも身をゆだねていたい。
「どうしたんだよ」
けれど彼の唐突な一言で彼女は息することを許される。本当に突然に。
「何が?」
「王女様が素直なのは何か理由があるんだろ?」
「・・・あなたが愛しくて仕方なくなったからって理由じゃだめなの?」
それは光栄だな。彼は笑い、彼女は頬を染める。
言葉の半分は本当で、半分は嘘だ。見つめる瞳が微かに揺れたのを彼は見逃さない。
けれど、それだけ。彼女がどういう意味でそれを告げたのかは今は知る由もないが、嘘でも言葉にしてくれたことが何より幸福だ。
赤い唇が、白い首筋が、目が眩みそうになるほど今夜も彼を誘惑する。
「どうなっても知らないからな」
互いに微笑んだあと、2人の影は重なった。