この年になって誕生日が楽しみで仕方ないというのは、少々おかしなことだ。
小さな子供ならまだしも、自分は今年でいくつになる?
1つ2つと数えてみたところで、今の年齢に達するまでに10の指では足りない。
それでも ― こんなふうに指折り数えられることが、彼女にとってなにより嬉しいのだ。
アーシェの戴冠によってダルマスカ王国が復活して、1年が経とうとする。
当時19歳だった王女は今年で御年二十。事実上は立派な成人であり、また人生の節目でもあろう。
明日はダルマスカ中が20年前の彼女の誕生を祝福することになっている。
だから、今が楽しみで仕方ない。当日はゆっくりできねぇだろうからと、彼は今日の夜中にくると約束したのだ。
きっと彼は12時前に酒を持って照れくさそうにやってくるのだろう。
この穏やかで愛しい思考は、彼がくれるなによりの誕生日プレゼントだ。
聞きなれた飛空挺の音がしたのは、彼女の予想通り日付が変わる12時前。
酒を片手に飄々とやってきた彼を包んだのは、愛しい彼女のささやかな笑みだった。
「なんだ?」
「ごめんなさい、でも、おかしくって」
「なにが」
「予想通りで。きっと、お酒を片手に持ってくるんだろうなって予想してたから」
そのままなんだもの。そういうと同時に、彼女はまた笑う。
ここに来ただけで笑われるなんて彼にとってはなんとも不本意だが、彼女が少しでも笑ってくれたならそれでいい。
つられて笑いながら、いつものソファーに腰掛ける。彼女は彼の隣に座る。
「これはなんのお酒?」
「ビュエルバで祝い事に用いる酒なんだとさ」
「で、ちょっと掠めてきたわけね」
「まさか」
王女様の誕生日だぜ?と続けて、グラスに注ぐ。
照れながら嬉しそうに微笑んだ彼女にグラスを渡し、互いに傾けた。
「20歳のころの、あなたに会ってみたい」
「なんで」
「全く知らないんだもの」
そりゃそうだろ。バルフレアは笑う。
そのころの自分といえば、空賊になりたてで、何もかもが新しかったころだ。
多くの失敗もしたし、また多くの財宝に目を晦ませた。
だからこそ、黄昏の断片だと知らずに手をだしたことからヴァンに出会い、彼女とも出会った。
「こんなふうになるなんて、想像できなかった。あなたたちと旅をしたころは」
「だろうな」
「だから、今日は本当に嬉しいの。みんなや、あなたが祝ってくれることが」
手を伸ばせばすぐの距離だった。彼女の髪を撫で、ささやかな言葉に彼は満たされる。
そして、もうそろそろだろうと右手を翳し、時計を見た。
11時59分。計画通り。
「アーシェ」
「うん?」
同時に塞がれたのは唇だった。
酒の香りが移りそうなくらい長い口付けのあと、鳴り響いた12時の鐘。
「おめでとう」
「・・・ありがとう」
微笑みながら、彼女はバルフレアの頬に手を寄せた。
そして、少しだけ意地悪そうに微笑んでいう。
「19歳最後のキスだったんでしょう?」
「さぁな」
「だったら、20歳最初のキスをしてもいい?」
1つ大人になったんだからとでもいうように、彼女は得意げに笑う。
つられて笑った空賊の彼は、もう一度素早く彼女に手を伸ばした。