泣くことに、もう疲れたの。彼女はそういった。
なんの話だ。唐突に告げられたその言葉をどう受け取ったらいいのか、バルフレアはわからなかった。
剥き出しの彼女の肩は小さい。触れれば、消えそうなくらいに。
銜えていたタバコを置き、シーツに横たわる彼女をこちらに向かせようとした。
しかし、頑なに強張った彼女の肩がその拒絶を示した。



「オイ」
「なんでもないわ。ごめんなさい、忘れて」
「なにを」
「・・・もういいわ」



会話は彼女の自嘲とともに淡々と終わった。
そして彼女は切ない微笑を携えてこちらを向き、彼にそっと近づいた。



「あなたの話を聞かせてほしいの」
「そりゃ光栄だな。なんの話だ?」
「なんでも。今日盗んできた宝のこととか」
「時間がもったいねぇな。それなら、俺は王女様と愛を語るほうが好きだぜ?」



素早く彼女の顎を取り、熱いキスをする。
愛を語る術なんて持ち合わせてないんでしょう?おかしいわ。彼女はそういって笑う。
生憎、王女様のみ持ち合わせていてね。そういってみたところで、きっと彼女は信じないだろうが。
それでいい。もし全てを伝えたら、それでもう終わりだ。
満たされぬ想いは、同時に飽くことなく抱き合う意味を持つことを彼女も知っている。

啄ばむようなキスを繰り返すと、彼女は苦しそうに息を求めた。
けれど彼女の唇に触れただけで崩壊した理性は、もう止まることなど知らない。
白く細い肌に触れ、やわらかい髪に手を差し込む動作はお手の物だ。
そして唇を離したとき、彼女の目が不意に潤んだ。



「オイ、どうしたってんだ」
「・・・好きなの」



あなたがいとしくて仕方ないのよ。バルフレアを真っ直ぐ見ながら彼女は話した。
突然の告白に、ここ最近久しぶりの動揺が彼を襲う。



「誰かを好きで泣くなんて、私にはないと思ってたから」
「・・・さっきのはそういう意味だったのか」
「おかしいでしょ。笑っても結構よ」
「笑わねぇよ。泣くほど好きだってことだろ?こんな幸せな空賊はいないぜ」



全て置き去りにされて、ただ泣いていたあのころとは違う。
いとしい人は彼女の目の前にいる。それだけで全てが満たされる。
笑みとともに彼女に降った熱い雨は、まるで幸福なそれだった。









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