どういう関係なのかは、最初からわかっていた。
「変えたんだな」
「え?」
「部屋の中」
「えぇ、ちょっと気分転換に」
彼はきっと誰よりも、ダルマスカ王女のことを理解している。
自分には厳しいからこそ時より見せる寂しそうな表情も、彼女の中で今も生きて支えている亡夫も。
王女の部屋だってそうだ。ちょっと模様替えしただけで気づいてしまう。
それは過ごした時間の長さ故か、それとも彼の高い洞察力故か。
どちらにしても、彼はいつもアーシェの隣にいながら、どこか上手だ。
「何か飲む?」
「いや」
「そう」
「これがあるんでね」
そういってアーシェに自慢げに見せたのは、彼女が好きといっていた酒と2つのグラス。
嬉しい、と笑った彼女はグラスを傾け、注がれる様を見つめた。
グラスが小さな音を立てれば、それからはもう二人の世界だった。
「ヴァンたちは元気?」
「あぁ。だいぶ様になってきたぜ」
「そう・・・。元気なら、それでいいわ」
「そっちは相変わらず花婿探しか」
「そういうところね」
大変なのよ、と彼女は笑う。
美しい微笑みは、彼を魅了する。ズキンと高鳴った正直な想いは、けれど空賊らしく隠したままだ。
伝えてしまえば、もう引き返すことはできない。
「今日は、何時まで」
突然、思い出したかのように、彼女は静かに問いかけた。
視線の先に彼はいない。こういうときだけ、彼女は目を無意識に反らすのだ。
「あと二時間だな。明日は野暮用がある」
「そう・・・」
続く言葉はなかった。この想いを告げられない以上、前に進むことなんてできない。
でも、彼女はここにある彼と過ごす穏やかな時間が好きだ。
それを口にしたら、彼はなんというだろうか。
王女様が何いってるんだというかもしれないし、あるいは、もしかしたら。
− もしかしたら。
「短いな」
「え?」
「時間。夜しか会えねぇから」
突然聞こえた声に、彼女は思考から引き戻される。
彼を見れば、グラスを片手に窓の外を見つめている。
そう、もしかしたら。
「・・・ポーカーフェイス、ちょっと失敗してるわよ」
「悪かったな。俺は生憎こういう顔なんだ」
「ううん、違う。照れたときに髪を掻く癖」
彼は手を止め、降参だというかのように笑う。
彼女は彼の傍にそっと近づいた。
「・・・そうね、短いわ。足りないくらい」
「やけに素直じゃねぇか」
「本心よ。あなたといる時間が好きなの」
それだけいうと、彼女は彼と同じように、窓の外を見つめる。
後ろから彼のしなやかな腕が彼女を包んだのは、それからすぐのことだった。
彼女は後ろを振り向く暇もなく、少しだけ肩を強張らせる。
「王女様が悪いんだぜ」
「・・・あなたが最初にいったのよ」
「時間を聞いたのはそっちからじゃねぇか」
「そんなの、関係ないじゃない」
小さな肩が、笑顔に震える。髪に手を伸ばせば、なよやかに彼の手に馴染んだ。
そして彼女の華奢な手が控えめに、彼の手に触れて。
「また、ここにきてくださる?」
「王女様が望むなら」
嬉しそうに笑う彼女を、彼は愛しさと一緒にぎゅっと抱きしめた。
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