簡単に話せるほど、私の想いは単純じゃないから



私がいちばん、好きな時間。















             
G o o d  m o r n i n g  t o  y o u
             















朝。まだ完全には日が昇っていない、優しい光が部屋を包むころ。
普段ならまだ眠っているこの時間に、どういうわけか私は目が覚めた。昨日、確か眠ったのは午前を過ぎたころだったはずなのに。
昨日のことを、ぼんやり思い出す。すると一気に顔が赤く染まっていくのを感じて、同時に横を向いた。
思ったとおり、あなたは私の隣で小さな寝息を立てながら眠っていた。無論、昨日私の背中にあったはずの手は崩れ落ちて腰あたりにある。
そのあまりにも穏やかで安らいだ寝顔を見ると、思わず微笑んでしまう。この人も、普通の青年なんだと。

思えば、あなたの寝顔を見るのは、初めてだったかもしれない。どんなに疲れていても、あなたは必ず私より早く起きていた。
そして目覚めた私にそっとキスして、おはようといってくれる。幸せな一日の始まりは、いつもあなたと朝を過ごしていた。
今日はなんて珍しい日。そう思うと、なんだかわくわくしてしまって、再度微笑んでしまう。
普段あなたがしてくれることを、今日は自分からしてみる。大丈夫、この人はまだ幸せな夢の中の住人。



「・・・ん・・・。」



小さくキスをすると、あなたの唇が微かに動いて、私は慌てて唇を離した。すると閉じたままだった目が微かに動いて、小さく開いた。
私は慌ててシーツの中に潜って、あなたの胸に顔を埋めた。



「・・・アーシェ?」



耳元で小さく囁かれて、私はさらに強く、あなたの胸の中に顔を埋める。恥ずかしくて、顔なんて上げられない。
そんなことを思いながら微々と動く私を見ると、あなたがそっと微笑んでいるのがわかった。そして、もう一度囁く。



「アーシェ?」



いつの間にか私を抱きしめていて、そしてその手をそっと解いて、私に顔を見せるように促す。
私はそっと、半分をシーツで隠しながらあなたのほうに顔を向けると、唇に優しい温もりが降りてきた。
いつもの、幸せな甘いシグナル。そっと唇を離すと、あなたはやっぱり微笑んで私にいった。



「おはよう、アーシェ。」



あなたがくれるシグナルに、私はどれだけ心臓を動かしているのだろう。いつも一人だけ余裕な顔をして、悔しい。
普段のあなたなら、絶対にこんなことなんてしない。だけど2人きりのときは、あなたは少しだけ意地悪で、強引で。
私に止め処ない愛のカタチをくれる。それを受け止めるのに必死な私。想いを伝えるのは、とても難しい。
それは好きだと思えば思うほど。大切な人だと感じれば感じるほど。もどかしくなって、伝えられなくて。
それをいとも容易くやってしまうあなたは、やっぱり私より一枚上手。スタンダードかつストレートに、私に想いを伝えて。



「・・・ずるいわ。今日、私あなたより早く起きたのよ?それなのに結局、あなたが一枚上手なのね。」
「だからか。今日の朝、窒息しそうな夢を見たんだ。君からのキスなんて滅多にないのに、起きていなかったとは残念だ。」
「・・・もう!からかうのはよして。」



顔を真っ赤に染めながら、せめてもの抵抗をする私を、あなたは優しく、それでもぎゅっと抱きしめた。
私の髪を優しく撫でるあなたに、私は問う。



「・・・今日、会議があるんでしょ?眠ってていいの?」



ずっとこうしていたいと思うのとは裏腹に、あなたには大事な仕事がある。
だけどそれ故にあなたとの幸せな生活ができるのだと思うと、どうしようもできない。
これからの私との生活のために、彼は忙しくまわっている。そして、私も。
だけど、返ってきた答えは意外なものだった。



「あぁ、会議は延期。ビュエルバが出席できなくなったんだ。だから今日は、なにもない。」
「本当?私も今日、なんの仕事も入っていないの。本当に久しぶりね。」
「だから今日は、アーシェの好きなところに行こう。たまには人々に混ざってゆっくりしないか。」



なんて幸せな朝。毎日じゃなくてもいい。たとえばあなたが疲れたときや、少し休みたいとき。
そんなときに、たまにこんな日があったら。それ以上の幸せを、私は望むことなんてできない。そしてきっと、あなたも。



「あなたといられたら、それだけでいいの。」



自分から滅多にいわない言葉とキスをして、ぎゅっと抱きしめて、今日はあなたより少し上手になってみる。
あなたは驚いて、だけどすぐに微笑んでいった。



「・・・そうだな。」



幸せな一日は、まだ始まったばかり。