たとえばそれは、指の間をすりぬけるくらいの、小さじ一杯の気持ち



今でも、あなたが好きだから。















             
C a n  y o u  h e a r  m e ?
             















私の記憶の中のあなたは、全部といっていいほど、凛々しく前を向いている。
どんなに辛いことがあっても、人前では絶対に弱音を吐かない人だった。
それは帝国軍への配慮か、それとも自身がしっかりするためだったのかは定かではない。

ただ、時々なにか無理をしているような素振りを見せることはあった。
夜、難しい顔をしながら考え込んでいたり、私に作ったような笑顔を見せてみたり。
他の誰もは気づかずにいたけれど、私にはなんとなく、それらしいことが感じ取られた。
それが、あなたをずっと見つめ続けてきた私の歴史故にと気づくまで、時間はかからなかった。

だけど、あの一番幸せだった日だけは、そうではなかったと信じていたい。











「君を、まさか17で花嫁にできるなんて思ってもいなかったよ。」



結婚式を終えた夜。ダルマスカで一番高くて大きな部屋で、あなたは私にいった。
部屋には小さな灯と、ラバナスタの街の光、それと少しぼんやりとした三日月の光だけが灯してある。
私は大きな窓の外を映していた目を、そっとあなたの方へ向けて微笑んだ。



「私も、まさか17で幸せな結婚をするなんて、想像もしていなかったわ。」



そういうと、あなたは微笑んで、こっちへおいでと小さく手招きした。
私は少し照れながら、それでもなんの抵抗もなくあなたのもとへ歩いていく。
裸足で歩く大理石の床は、少しだけ冷たく感じられた。



「・・・幸せ?」



私を優しく抱きしめるあなたに、私はそっと問いかける。
あなたは私の肩に埋めていた顔を上げて、私に、アーシェは?と問いかけた。



「もう、私から聞いたのよ?」
「アーシェが幸せだったら、俺も幸せだから。」



耳元で囁かれた言葉に、私の次はなかった。
あなたはいつも優しいけれど、私の前では少しだけ意地悪で、強引。
だけど、そんなあなたの器用さは、私は決して嫌ではなくて。
私より一枚上手なのも、優しく囁かれる声も、みんな愛しくて仕方がない。



「アーシェ。」



涙で潤んだ目にそっとキスをして、私を決して置き去りにはしない。
微笑む余裕すら見せるあなたに、多少の悔しさを覚えながら。
思考回路の遮断された頭で、それでも私はやっぱりあなたが好きなんだとぼんやり思う。
朦朧(もうろう)とした意識の中で最後に見たのは、あなたの幸せそうに優しく微笑む顔だった。







あのときだけは、あなたは本当の幸せだったと信じていたい。
もう、ずっと遠い昔のことなのだけれど。