幸せの、その前に。















             
H a p p y  n e w  d a y
             















薄いブランケットを羽織って、部屋のバルコニーへそっと足を踏み入れる。ひんやりと冷たい地面が裸足に感じる。
視野に広がる、朝焼けの空。雲間からのささやかな光を浴びる、王都ラバナスタ。
美しいこの王国で数時間後、全てのものからの祝福を受け、民と神父の前で永遠の愛を誓うのだ。



「・・・アーシェ?」



名前を呼ばれて、そっと振り返る。声の主はもう、振り向かなくてもわかっていた。
あなたは少しだけ微笑むと、私を後ろからそっと抱きしめる。



「こんな時間に、どうした?」
「・・・なんだか、早く目が覚めてしまったの。」
「マリッジブルー?」
「・・・わからない・・・でも・・・。」



あなたと結婚することが私の幸せなのは、変わらないから。
少しだけ微笑んでいう。何故だろう、今はとても穏やかで、素直にあなたへの想いを告げられる。
そうすると、あなたは後ろから私を優しく抱きしめて、静かな風に揺れる髪にキスを落とした。
くすぐったくて、でも嬉しくて、幸せで。あなたに触れているときが、私は一番好きだった。



「でも・・・の、続きは?」
「・・・なんでもないわ。」



あなたが耳元で囁くから、私も同じようにあなたの耳元で囁く。
本当に、なんでもないのだ。あなたが私を抱きしめた瞬間、今まで考えていたことなどどうでもよくなった。
幸せな未来のために、今から準備することも必要だ。
けれどそればかりに目を囚われて、今ここにある幸せを感じないのは、またおかしな話だ。



「朝日だわ・・・。」



暁の時間は静かに過ぎて行き、新しい日の始まりを光が伝える。それは、希望にも似た至福。
ラバナスタは、至福の光に包まれて朝を迎える。この何気ない日常が、ずっと続いてほしいと願う。



「アーシェ。」



名前を耳元で囁かれて、そっと振り返った。その瞬間、唇に温かいものを感じる。
触れるだけの、優しいキス。それは目を閉じる前に終わった、ささやかな刹那。永遠の幸福。



「愛してる。」


低くて、でも透き通る、世界で一番愛しい声。それは至福の言葉を乗せて、耳元に届く。
あなたのほうを見れば、少し照れくさそうに微笑んでいた。



「・・・キスの続きは?」
「今夜、君が嫌っていうほど。」



意地悪っぽく微笑んで、あなたも私も少しだけ頬を染めて。
こんなにも愛しい時間を、永遠にする。今日は、そんな特別な日だ。



「・・・大丈夫。人々の幸せはきっと続く。」



至福の光が、いつまでもダルマスカを包んでいた。