大理石のバスルームは、バルフレアの居場所を持て余すほど広かった。
蛇口や扉など至るところに施してある金は、イヴァリースきっての高価で珍しいものなのだろう。
それでも他の王室に比べて少ないことが、彼女の誠実さをここでも物語っている。

ふぅ、と。溜め息を吐けばバブルが小さく弾けて、目の前にいる彼女のほうへ飛んでいく。
それに気づいたのか、彼女はどうかしたの?と首を傾げた。
いや、別に。彼はそれだけいうと、彼女を後ろから抱き寄せ、右手を伸ばした先にあったシャンプーを彼女の濡れた髪に施した。
当の彼女は全くそれに動じることなく、バブルを掬い、まるでシャボン玉のように遠くへ飛ばしていた。



「男の人に、髪を洗ってもらうのは初めて」
「へぇ」



彼女は楽しそうに呟いた。彼は多少驚いたけれど、それでも何ともないように相槌した。
彼女の髪は柔らかい。それはいつものことなのだけれど、こうして直に触れれば尚更それを実感する。
そろそろいいだろうと、泡に隠れた彼女の髪を洗い流そうとシャワーに手を伸ばしたときだった。



「・・・驚いた?」
「なにが」
「私が、男の人と初めてお風呂に入るって聞いて」



それを問いかけた彼女はなんだか楽しそうだった。そして彼にそっと身体を預けた。
多少な。彼が素直にそう告げると、彼女の笑みはより深さを増した。



「なんだよ」
「・・・なんか、おかしい」
「なにが」
「なんとなく」
「はぁ?」



新婚みたいで、なんだか嬉しいの。照れながら、それでも嬉しそうに彼女は答えた。
彼はといえば、そんな彼女があまりにも愛しくて、よかったなと答えるほかなかった。



「面倒なことが嫌いなあなたが、他人の髪を洗うなんて」
「・・・悪かったな」
「ううん。どうしよう、嬉しい」



お前、頭打ったのか?あまりにも楽しそうに笑う彼女がいつもの彼女から考えられなかった。
失礼ね。彼女はそういうと、また微笑む。
なにが嬉しいんだかねぇ。まるで独り言のように呟く彼も、いつの間にか笑顔だ。



「また、一緒に入れる?」
「やけに積極的だな。王女様のお好きなときに」



彼はそういうと、彼女をこちらにそっと向かせて額にキスを落とす。
変な頭。意地悪げに微笑んだ彼に、彼女はまた膨れ面になりながらも笑った。
バスルームに無数に広がるバブルが、幸せな二人を次も映すのだろう。