まだ火照りが残る素肌に、朝のカラリとした冷たい空気は心地よかった。
起き上がってうんと背伸びしたら気持ちがいいだろうな。そう思うのに、身体が動かないのだ。
犯人はわかっている。自分の背中に手をまわし、眠っているのに自分が動こうとするとそれを阻止するのだ。
全く、起きているのかいないのかわからない。けれど彼のそんな優しさが好きだった。
夢の中にいても、いつも自分を捕まえていてくれる。空賊は掴んだ宝石を決して離さない。
耳にしていた彼の鼓動から離れて、のそのそと上にあがって彼と同じ高さになる。
あどけない顔。いつもの飄々とした表情は夢に連れさらわれたのだ。彼女は深く微笑んでありのままを告げる。



「こんな表情を見せるのは、私だけがいいわ」



他の人にこんな表情を見せてほしくない。誰も知らない彼を、1つくらい自分に分け与えてほしい。
顔も知らない女に嫉妬するなんて。どれほど自分は彼が好きなのだろう?
日を追うたびに、彼に会うたびに、抱きしめられるたびに、こうして朝を迎えるたびに?ここまでかと自分でも疑うほどに高鳴る鼓動を彼は知らない。
でも、それでいい。彼に対する確かな想いは、ときに自分を変えていく。
そう、彼を想うだけで退屈な日々が穏やかな日々に変えられるような。そんな素敵な魔法にいつもかかっているのだ。
小さく音をたてて彼の頬にキスをした。今なら全てが素直になれる気がして、彼をぎゅっと抱きしめる。
そして頭上から聞こえてきた声は、やっぱり愛しくて。



「・・・口には、してくれねぇの?」
「しないわよ」



驚いたのは彼だった。残念、彼が最初から起きていたことくらいわかっていた。
彼の腕に抱かれながら意地悪く微笑んで告げる。いつまでも負けてばかりはいられない。
彼は微笑んで、彼女の柔らかな髪を撫でる。



「残念だな」
「絶対起きてるってわかってたから、しなかったの」
「本気で寝てたらするのかよ」
「どうかしら?」



彼女の小さな笑い声が耳に届いて、小さな肩が震えているのがわかる。
そんな距離にいる今が愛しい。
彼は諦めたように笑い、彼女の上に覆いかぶさる。



「ちょっと」
「そんな顔、他の男に見せるなよ?」
「・・・どんな顔?」
「こんな顔」



そして同時に重なった唇に、彼女は身体を強張らせる。
こんな顔って・・・彼に振り回されている顔?でもそれは、彼にしかできないことなんじゃない?
変なの、と彼女は心の中で微笑んで、降り止んだキスのあとに告げる。顔を少しだけ歪めて。



「こんな顔も?」



彼女は深く微笑んで、彼の首に自分の腕を絡ませる。
すると彼は意外にもまっすぐに彼女を見詰めて、そして照れくさそうに微笑んだ。



どんなアーシェも、全部俺のもんだぜ?









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