朝焼けの空が、まだ暗い部屋を覆っていた。今日も、また雨なのだろう。ここでは長雨が続いている。
まだ眠りの余韻から覚めることの出来ない身体を、意識の限り、ラスラは動かした。
すると自分の腕の中で眠っていた彼女も少しだけ動く。無論、穏やかな瞳は閉じたままだ。
ラスラはそっと微笑み、愛しいその花嫁のやわらかな髪を手に絡ませ、小さな額にキスを落とす。

愛しい、と。こんなにも想ったことはあるだろうか。
昨晩初めて彼女に触れたとき、愛しさでこの身が滅びそうだった。理性などもとより打ち勝てるわけがない。
熱い吐息、漏らされた言葉、きつく繋がれた冷たい指先。今もそう、何もかもが愛しくて仕方ない。
未だ幸せな夢を見ているであろう腕の中の彼女を、そっと強く抱きしめる。
くすぐったそうに身をよじる彼女の口元が少しだけ微笑んでいるのは、きっと気のせいではない。
アーシェ。
口元で愛しいたった一つの名前を紡げば、それだけで心が穏やかになる。
意識のままに瞳を閉じて、優しい時間の流れに身を任せた。







「ラスラ」



名前を呼ばれ、うっすら目を開ければ、あの笑顔が覗き込んでいた。
朝よ、と。嬉しそうに幸せそうにアーシェは話す。



「おはよう」
「・・・おはよ」



微笑んで、今日最初のキスを落とす。
くすぐったそうに自分を抱きしめる手は温かい。
ダルマスカの宝物は、暁の断片ではなく、むしろ彼女自身だ。寄せられる期待の目は石ではなく、彼女に注がれている。
そして自分にとっても、唯一無二の人だ。

その笑みが耐えぬよう、涙が落ちぬよう。
愛しさと願いを込めて、もう一度キスをした。